大阪地方裁判所 平成10年(ワ)4148号 判決 1999年4月28日
原告
大成忠義
原告
河村和範
原告
清水長八
原告
藤本猛
原告
古川伸夫
原告
宮里幸治
原告
吉岡正治
原告ら訴訟代理人弁護士
井上二郎
中島光孝
被告
茨木高槻交通株式会社
右代表者代表取締役
薬師寺薫
右訴訟代理人弁護士
松下守男
竹林節治
畑守人
中川克己
福島正
竹林竜太郎
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、各原告に対し、別紙請求額目録記載の各原告名欄に対応する未払賃金合計欄の金員、並びに、右金員のうち未払賃金Ⅰ欄記載の金員に対する平成九年一一月二八日から及び同未払賃金Ⅱ欄記載の金員に対する平成一一年三月一日から、それぞれ各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の従業員である原告らが、被告は、原告ら所属の労働組合との労働協約により原告らの労働条件変更の合意を行い、その結果、原告らの賃金を減額したが、右労働条件変更は原告らの意思に反したもので、原告らに対し規範的効力を有するものではない等と主張し、減額された賃金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 当事者
(一) 被告は、一般乗用旅客自動車運送事業等(タクシー事業)を目的とする会社であり、平成五年九月、旧茨木交通株式会社(以下「旧茨木交通」という。)及び旧高槻交通株式会社(以下「旧高槻交通」という。)が合併して茨木高槻交通株式会社となり、その後、平成七年一〇月、関西中央自動車株式会社を合併して、現在に至っている者である。
被告に雇用されている乗務員総数は約一四〇〇名である。
(二) 原告らは、いずれも被告に雇用されている乗務員である。
原告らは、いずれも全国自動車交通労働組合連合会茨木高槻交通労働組合(以下「全自交高槻」という。)の組合員であり、全自交高槻は全自交大阪地方連合会(以下「全自交大阪地連」という。)に加盟している。
2 原告らの従前の労働条件
(一) 原告らのうち、原告藤本のみ平成九年五月二一日以降日勤勤務、その余の原告らは隔日勤務である。
被告は平成九年七月二一日就業規則を変更したが、変更前の就業規則によると、隔日勤務の場合の労働条件は次のとおりであった。
始業時刻 午前七時
終業時刻 翌日午前二時
拘束時間 一九時間(途中休憩三時間、実働時間一六時間)
勤務数 月一二勤務(一二乗務ともいう。)
月間実働時間 一九二時間(一六時間×一二)
また、日勤勤務(昼勤)の労働条件は次のとおりであった(<証拠略>及び弁論の全趣旨)。
始業時刻 午前六時
終業時刻 午後四時
拘束時間 一〇時間(途中休憩二時間、実働時間八時間)
勤務数 月二四勤務
月間実働時間 一九二時間(八時間×二四)
(二) 被告においては、固定給を基本として賃金を算出するいわゆるA型賃金体系と歩合給を基本として賃金を算出するいわゆるB型賃金体系の二つの賃金体系があり、原告ら以外の乗務員にはすべてB型賃金体系が適用されており、A型賃金体系が適用されているのは原告らのみである。
(三) 原告らの賃金の算出は、日勤勤務、隔日勤務とも、平成九年八月二〇日以前は以下の算式によっていた(以下「旧賃金条件」という)。
(1) 基本給(各原告独自のもの)
(2) 精勤手当(各原告とも原則として三〇〇〇円)
(3) 一労働時間当たり賃金=(基本給+精勤手当)÷一九二時間
(4) 残業手当=一労働時間当たり賃金×一・二五×残業時間
(5) 深夜手当=一労働時間当たり賃金×〇・二五×深夜時間
(6) 歩合給=(一乗務の営業収入-足切額二万五七五〇円)×〇・四×乗務数
(7) 歩合割増=歩合給×(残業時間+深夜時間)×〇・二五÷(一九二時間+残業時間)
(8) その他(通勤手当、家族手当等)
(9) 総支給額=(1)+(2)+(4)+(5)+(6)+(7)+(8)
(四) 被告では、毎月二〇日締切りで同月二七日に賃金が支給されている。
3 原告らの賃金条件変更経過
(一) 全自交高槻もかつては、A型賃金堅持を方針としていたが、平成五年九月からB型賃金導入姿勢に転換し、現在の組合執行部もB型賃金の適用を受けている。
(二) 平成九年五月、被告は、同年度春闘の回答をしたが、原告らA型賃金適用者に対する回答は以下のものであった。
(1) 月例賃上げ七五〇円(定昇込み)
(2) 一時金は、半期(六か月)の営業収入が合計三三五万円以上の者には営業収入の一〇パーセント、以下の者には八パーセント
(3) 年功給は一〇年で打ち切り
(4) 勤務体系や月間一二乗務、年間一四四乗務は維持する。
(三) 被告及び全自交高槻は、同年六月一六日、協定書(以下「本件協定」という。)に調印した。本件協定では、原告らA型賃金適用者の月例賃上げは一七五〇円になっていたが、他方、次の項目が追加されていた。
(1) 月間所定労働時間一九二時間を一七三時間に短縮する。
(2) 月例賃金の基本給、深夜手当、残業手当、歩合給(歩合割増を含む。)はスライドを行う。なお、スライドとは、時間短縮に伴い基本給を下げること(短縮される所定労働時間一九時間に比例して基本給を減額)、あるいは歩合給を下げること(足切額を引き上げること)等の措置をいう。
右協定締結によってもなお、A型賃金適用者に対する具体的賃金条件は定まっていなかった。
原告らは、本件協定締結に先立ち、同年六月一五日、被告及び全自交高槻に対し、本件協定案では<1>時間短縮を理由とする過度な賃金引き下げとなっていること、<2>未確認の内容を含んでいることなどから、仮に右内容で協定が締結されても、その効力は原告らに及ばない旨通告した。
時間短縮は、同年七月二一日から実施されたが、新しい賃金条件の一部(歩合給の足切額)は未定であった。
(四) 被告と全自交高槻は、同年八月二〇日、確認書をもって、A型賃金適用者に対する歩合給計算の際の足切額を従来の二万五七五〇円から三万二〇〇〇円とすることで合意し(以下「本件確認」という)、その結果、同月二一日から、原告らに対する新しい賃金条件(以下「新賃金条件」という。)が適用されることになった。その賃金条件は以下のとおりである。
(1) 基本給(各原告独自のもの。ただし、一九時間の時間短縮に伴い減額されたもの)
(2) 精勤手当(各原告とも原則として三〇〇〇円)
(3) 一労働時間当たり賃金=(基本給+精勤手当)÷一七三時間
(4) 残業手当=一労働時間当たり賃金×一・二五×残業時間
(5) 深夜手当=一労働時間当たり賃金×〇・二五×深夜時間
(6) 歩合給=(一乗務の営業収入-足切額三万二〇〇〇円)×〇・四×乗務数
(7) 歩合割増=歩合給×(残業時間+深夜時間)×〇・二五÷(一七三時間+残業時間)
(8) その他(通勤手当、家族手当等)
(9) 総支給額=(1)+(2)+(4)+(5)+(6)+(7)+(8)
4 新旧賃金条件による較差
平成九年九月支給分以後の新賃金条件によって支給された原告らの賃金と、旧賃金条件で算定した場合(一九時間の時間短縮がなされたことを前提とするが、時間短縮に伴う基本給減額及び歩合給及び歩合割増の足切額引き上げがないものとした場合)に支給されるべき賃金との差額は、別紙新旧賃金計算表<略>記載のとおりである。
二 本件の争点
本件協定及び本件確認は、原告らに対して効力を有しないものか否か
第三争点に対する当事者の主張
一 原告の主張
1 本件協定及び本件確認の手続的及び実体的瑕疵
本件協定及び本件確認は労働協約としての形式を整えてはいるが、原告らに対しては規範的効力を及ばさない。
(一) 労働者の自己決定
(1) 労働協約に規範的効力を付与した労働組合法の趣旨は、使用者と労働者との個別交渉では労働者の真の意思が労働契約に反映されにくいため、団体交渉による集団的自己決定によって、個々の労働者の真の自己決定を回復しようとするものである。したがって、個々の労働者の真の自己決定を回復するものといえない労働協約は、その規範的効力の妥当性の根拠を持たないというべきである。
労働条件を切り下げる労働協約が、規範的効力を持つためには、
ア 労働条件切り下げを許容すべきかどうかについて、組合員間で十分討議が尽くされ、かつ、全組合員のうち多数がそれに同意することが明確化されたこと
イ 労使の交渉過程において、労働条件切り下げの対象となる組合員の意思が反映されたこと
ウ 一部の組合員についてのみ労働条件が切り下げとなる場合は、当該一部の組合員についてだけ、労働条件を切り下げることが合理的とされるだけの十分な根拠を有すること
が必要というべきである。
(2) 本件協定は、A型賃金適用者の月例賃金の基本給、深夜手当、残業手当、歩合給(歩合割増を含む。)を時間短縮に伴い、スライドを行うというものであって、一部(足切額)未定の部分もあるが、原告らの賃金条件を引き下げるものであることは明らかである。
全自交高槻は、本件協定締結に先立ち、平成九年六月一一日、批准集会を開催し、本件協定内容が記載された「協定書」と題する書面を組合員らに配布した。
原告らは、時間短縮に伴い基本給を下げることは固定給を基本とするA型賃金の本質に反するとの意見を述べたが、執行部の容れるところではなく、足切額がいくらになるかとの質問にも執行部は答えられなかった。そして、組合員から他の組合ではまだ交渉を続けているから急いで批准する必要がないとの意見が出されたにもかかわらず、これも無視して、協定書の内容で妥結するかどうかの採決を強行した。投票結果は賛成が三二、反対が一六であった。
以上のことからして、組合内部で十分討議が尽くされ、かつ全組合員のうちの多数が同意したということはできない。
また、原告らは、批准集会において、具体的な数字も決まっていないのに批准するのはおかしいとして、批准そのものに反対し、かつ、協定締結に反対する旨の通告もしていたのであって、本件協定には原告らの意思は反映されていない。全自交高槻執行部は、後に、原告らに対し「不服であれば、組合から離れよ」との通告書を送付しており、このことからみても、労使交渉において、原告らの意思は一顧だにされなかったことは明らかである。
さらに、原告らA型賃金適用者に対してのみ賃金条件を切り下げる合理的な理由は全くない。代償措置がないのみならず、本件協定においては一時金まで切り下げられている(従前は春闘で妥結した定額支給であったが、半期営業収入の一定割合を支給する方式に変更されて、支給額が減額された)。
(3) 本件確認は、歩合給計算の際の足切額を変更し、歩合給及び歩合割増を切り下げる内容のものであって、原告らの賃金条件を引き下げるものであることは明らかである。
本件確認を同意するに当たっての全組合員を対象とした討論は一切なかったし、全組合員の同意を得る手続もなかった。
全自交高槻の執行部は、本件確認の調印に先立ち、平成九年八月一〇日、原告らに対し、足切額が三万二〇〇〇円となるとの説明を行ったが、原告らはこれに反対した。しかるに、全自交高槻執行部は、「執行部としてはこの条件でやむを得ない」「少数の原告らのために闘うことはできない」として、原告らの意思を労使交渉に反映させることはなかった。
原告らA型賃金適用者に対してのみ、足切額を引き上げ、賃金を大幅に引き下げることを合理化する根拠はない。
(二) 協約自治の限界
(1) 労働条件を不利益に変更する労働協約も、協約自治の観点からして、直ちに無効となるものではないが、協約自治の主要な目的である個別労働者の労働条件の向上という社会的保護の観点に照らして異常な事態であるから、第一に、労働協約の定める労働条件を既往に遡って不利益に変更したり、既に個々の組合員が取得している請求権を処分することは許されず、第二に労働条件を将来にわたって不利益に変更する場合(本件のように賃金条件を変更する場合等)には、労働条件を不利益に変更しなければならない必要性と変更内容の合理性を前提に、十分な民主的討議に基づく組合意思の決定がなされ、かつ正当な組合代表者に協約締結の権限が授権される場合に限って、右不利益変更が当該組合員に効力を及ぼすというべきである。
(2) 本件協定等の成立経過は民主的討議に基づく組合意思の決定とは到底いえない。また、本件協定等は全自交高槻内において原告らだけにかかわる事項であり、その対象者たる原告ら全員が協定締結に反対していたにもかかわらず、全自交高槻執行部は、本件協定等の締結を強行したのであり、右執行部は「協約締結の権限が授権された正当な組合代表者」とはいえない。
したがって、協約自治の観点からみても、本件協定等は原告らにその効力を及ぼさない。
(三) 公正代表義務
(1) 労働組合は組合員の利益を全体的、長期的に擁護しようとしてそれ自体では不利益に見える協定を締結することがあるので、一般論としては、労働協約は労働者に不利な条項についても規範的効力を有する。
しかしながら、特段の不合理性が認められる場合は協約の効力は否定されるべきである。そして、特段の不合理性が認められるか否かの判断は、組合内の意見調整の公正さ(公正代表義務)という観点と変更内容の合理性(必要性と不利益の比較衝量)という観点からなすべきである。
公正代表義務が尽くされているか否かは、これを手続的側面と実体的側面とに分けて判断すべきである。
手続的側面については、第一に要求集約、確定手続において、種々の組合員の要求を民主的手続にのせ、それらの要求を調整し、取捨選択して、労働組合の要求として集約確定することが必要である。
第二に、協約締結承認手続きにおいて、協約内容が具体的に煮詰まった段階で、そうした労働協約を締結することが組合員の総意にかなうものであるか否かを決定する必要があり、その決定に組合員の民主的参加が保障されていることが要求される。
次に、実体的側面については、労働協約が特定部門の労働者の労働条件を引き下げる場合には、合理性を有さず、公正代表義務を尽くしたとはいえないし、特定組合員個人の労働条件を引き下げる協約は、個人をことさら狙い打ちにする性格を有するものであって、公正代表義務に反する。
(2) 本件協定等は、要求集約、確定手続段階で、原告らの要求が組合要求として集約される手続はそもそもなかったし、平成九年六月一一日の批准集会においても、急いで批准する必要はないとの意見を無視して投票を強行するなど、組合員の民主的参加が十分保障されたとはいえない。
また実体面をみても、本件協定等は、全自交高槻組合員のうち、原告ら七名のみを対象とするもので、特定労働者に対する狙い打ち以外の何ものでもない。
したがって、本件協定等は手続的側面からも、実体的側面からも、公正代表義務を尽くしたとは到底いえず、原告らに規範的効力を及ぼすことはない。
2 民法九三条但書
本件協定締結及び本件確認を行った全自交高槻の羽室委員長の意思表示は、民法九三条但書により無効である。
代理人が、本人の利益のためではなく、自己又は第三者の利益のために代理行為する場合について、相手方が代理人の右意思を知り、または、知ることを得べかりしときは、右代理行為は無効である。
労働組合の執行委員長は、個々の組合員の代理人ではなく、完全な法主体性を認められている労働組合の代表者である。
しかしながら、株式会社の代表取締役の代表行為が会社に帰属するのみで、会社構成員たる株主にはその効力を及ぼさないのと異なり、労働組合の執行委員長が使用者と締結する労働協約は、その規範的効力によって個々の組合員と使用者との労働契約内容を直接変動させる。かかる効力が認められていることからすると、多数決原理を妥当させるべきでない事項については、労働組合の代表者は集団的な共同決定によるのではなく、利害関係を有する個々の組合員の意思にしたがって労使交渉をなし、その意思を労働協約に反映させるべき義務を負っているというべきである。
原告らA型賃金適用者と他のB型賃金適用者である組合員とでは、共通の利害関係を持たず、原告らの賃金条件はB型賃金適用者を含む全組合員が共同決定する事項とはいえない。現に、全自交高槻では、B型賃金を受け入れて以来、A型賃金適用者とB型賃金適用者の労働条件を別個に被告と交渉し、協約を締結してきた経緯がある。
したがって、本件協約締結等をするに当たって、羽室委員長は、原告らの意思にしたがって被告と交渉し、原告らの意思に基づいて協約締結等をすべきであった。
しかるに、羽室委員長は、原告らが明白に反対の意思を表明していることを知りながら、本件協約締結等をした。また、被告も、原告らの通知により、原告らが協約締結に反対していることを知りながら、したがって、羽室委員長が原告らの意思に反して本件協約締結等をすることを知りながら、本件協約締結及び本件確認の合意をなした。
このような場合、民法九三条但書の(類推)適用により、本件協約及び本件確認はいずれも無効というべきである。
3 公序良俗違反
本件協約及び本件確認は、その結果の重大性並びに被告及び全自交高槻執行部(羽室委員長)が原告らに対する嫌がらせのために行ったという目的の不当性の故に、労組法が労働協約に規範的効力を認めた趣旨を大きく逸脱しており、公序良俗に反し無効である(民法九〇条)。
(一) 新賃金条件によって、原告らの賃金は、旧賃金条件による場合と比較し、約一三パーセント前後の大幅な減額となった。原告らの生活に与える影響は甚大であって、その結果の重大性の一点だけでも本件協約等は公序良俗(正義の観念等)に反する。
(二) 被告及び全自交高槻執行部が、原告らに重大な影響が及ぶことを知り、また、賃金減額の合理的な必要もないのに、原告らの反対を押し切って本件協約締結等をしたのは、原告らのA型賃金体系堅持の一貫した姿勢と組合活動を、被告及び全自交高槻執行部が嫌悪したことによる。すなわち、
(1) 賃金体系としては、B型よりA型のほうが労働者にとって有利である。
そこで、労働者はA型を指向し、使用者はB型を指向する状況が続いていた。特に被告代表者薬師寺薫は、B型賃金体系を強く指向してきた。
(2) 薬師寺は、昭和五三年一二月、当時A型賃金体系を取っていた旧茨城交通の代表取締役に就任し、「賃金配分正常化」を宣言し、昭和六二年にB型賃金を導入した。
同人は、昭和六三年八月高槻交通有限会社に出資し、平成元年二月に同社の代表取締役に就任した。そのころ、高槻交通有限会社には自交総連高槻と全自交高槻の二つの労組が併存し、従業員は全員A型賃金適用者であったが、薬師寺は、B型賃金移行を画策し、平成二年一〇月、元自交総連茨城交通執行部役員等一一名を採用して新しい労働組合(以下「新労」という。)を結成させ、新労との間でB型賃金受け入れの協定を結び、以後、全自交高槻や自交総連の組合員に対しB型賃金への誘導を図り、A型賃金適用者には様々な攻撃を加えてきた。その結果、平成三年五月、自交総連高槻は、B型賃金移行を受け入れるに至った。この間、高槻交通有限会社は平成三年ころ株式会社に組織変更し、引き続き薬師寺において代表取締役に就任したが、薬師寺は、平成四年の春闘において、全自交高槻に対し、集団交渉への参加の条件としてB型賃金移行を持ち出し、合併後はA型賃金堅持を方針とする全自交高槻に対してのみ、無線配車規制を実施し全自交高槻組合員の残業手当を皆無にするなどして組合員を動揺させ、その結果、全自交高槻は、同年八月二〇日、臨時大会を開催し、A型賃金堅持の方針を変更し、B型賃金受け入れを決定するに至った。
同年一〇月二〇日、全自交高槻と被告とはB型賃金受け入れを前提とする協定書と確認書に調印し、同年一一月二一日、原告らを含むA型賃金堅持を表明する九名を除く全員が、割増退職金を支給されて、B型賃金に移行した。
(3) この間、被告からは、A型賃金堅持を表明する者について不利益扱いを行う旨の発言が繰り返されている。
すなわち、被告で専務と称されていた上月保弘は、平成五年八月一二日、当時全自交高槻の執行委員長であった原告大成に対し、「全組合員が、B賃に移行するなら五〇〇万円を用意している」などと述べて、B型賃金への誘導を行ったほか、同年九月四日の団体交渉において、「組合員全員に対する無線配車規制(本部からの無線での配車要請を行わないという趣旨のもの)は止めるが、B賃に移行せず、A賃に残るものがいれば、また無線配車規制を行う。A賃からB賃に移行すれば、一時金についても集団交渉での妥結額を支給する」旨述べ、また、同月二一日のB型賃金説明会で「A賃の賃率も、B賃と同程度に引下げる。もはやA賃に未来はない」と述べ、さらに同月二八日の団体交渉において「A賃は賃率を下げてぐちゃぐちゃにしてやる」などと述べた。
同年一〇月一一日の団体交渉で、被告担当者は「A型の者の足切額をあげて必ず賃率を下げる」と発言した。
同年一二月一〇日、被告は、原告らを含むA型賃金適用者についてのみ一時金を支給しなかった。
被告は、原告らA型賃金適用者については、残業をさせないとか足切額を引き上げるとか、あるいは、原告らのみ休日(公休日)出勤を認めないなどの不利益取扱いをしてきた。このため、原告らA型賃金適用者は、公休日出勤に関する不利益取扱い等について、大阪府地方労働委員会に不当労働行為救済命令の申立をし、平成八年八月二六日、被告が平成五年五月二一日から九月にかけて実施した全自交高槻組合員のみに対する無線配車規制は、B型賃金移行を目指す被告がA型賃金堅持の組合方針を切崩すために行った支配介入である、A型賃金適用者についてのみ休日出勤を認めなかったのはB型賃金移行完遂を図る被告が、A型賃金堅持の組合活動を続ける原告らを差別的に取り扱い、経済的不利益を与え、もって、A型賃金B型賃金併存を認めている組合に対しその運営に関し支配介入を行うものであるとして、右救済命令申立を一部認容する命令を得たが、被告は、右地労委命令を不服として中央労働委員会に再審査の申立を行って、右地労委命令を履行せず、一時金支給もせず原告らを兵糧責めにした。
(4) 全自交高槻執行部は、平成八年一〇月以降、それまでA型賃金適用者とB型賃金適用者との賃金及び一時金等の労働条件を別々に批准し、別々の協定を締結してきた扱いを変えて、AB一括批准とすることに方針転換した。
これは、別個の批准、協定締結の場合、A型賃金適用者の意思が尊重されるため、被告の意図が原告らには貫徹できないとの事情を背景とする。
本件協定締結に向けての平成九年六月一一日の批准集会は、右経過を踏まえてAB一括批准としたものであるが、少数派の原告らA型賃金適用者の意思が反映されないことを全自交高槻執行部も被告も当然知っていたものである。
右批准結果を踏まえ、本件協定締結、そして本件確認の合意がなされ、原告らには大幅な賃金減額となった。
薬師寺の一貫した方針は、A型賃金放逐、B型賃金の貫徹であり全自交高槻執行部と意思を通じて原告らの賃金を大幅に減額させるため本件協定等を締結した被告の行為は労働協約の制度目的を蹂躙する違法なものである。
よって、結果の重大性及び被告の行為の違法性にかんがみ、本件協定及び本件確認は著しく正義の観念に反し、社会的にも不相当であり、公序に反する無効なものというほかない。
4 以上によれば、被告は、原告らに対し、旧賃金条件にしたがった賃金を支払う義務があり、現実に支給された賃金額と旧賃金条件で算出した賃金額との差額が未払となる。
別紙請求額目録未払賃金Ⅰ記載の各金額は、右のようにして算定した平成九年九月から同年一一月までの原告ら各自の三か月分の未払賃金であり、同目録未払賃金Ⅱ記載の各金額は、同様に算定した同年一二月から平成一一年二月までの未払賃金であり、原告らは、右各未払賃金と、右未払賃金Ⅰについてその支給日の最も遅い日の翌日である平成九年一一月二八日から、右未払賃金Ⅱに対してはその支給日の後である平成一一年三月一日から、各支払済みまでの商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
二 被告の主張
1 本件協定及び本件確認が原告らに規範的効力を及ぼさないという原告らの主張はすべて争う。
2 被告は、原告らと全自交高槻との間の交渉経過については一切知らない。
被告も、本件協定等が原告らの労働条件引き下げの一面を有していることを否定するものではないが、本件協定等の趣旨は、労働時間短縮とともに、それに見合った基本給の引き下げを行ったものであって、それ自体不合理なものではない。全自交高槻と被告とは、業界を取り巻く現状、被告を取り巻く実状等を団体交渉において協議し合意に達したものである。
被告としては、原告らの労働条件の交渉方法については、原告らのみが、A型賃金就労者となって以来、団体交渉で交渉したり、全自交高槻了解のもとで原告らと直接交渉を行ったり、種々な形態で行ってきた。それも、被告としては、交渉相手である全自交高槻(原告らを含めて)の要望を受けてそのとおりに行ってきたものである。
本件協定についても、原告らが、全自交高槻との交渉を選択したということで、被告は対応し、交渉し、協定を締結したに過ぎない。
一方で、全自交高槻の組合員であるという立場をとりつつ、自主交渉もせず、全自交高槻との交渉を被告にさせながら、一方でその結果を否認するという原告らの主張は信義に反するものである。
3 原告らは、全自交高槻の交渉結果が原告らの真意に反するとして民法九三条但書の類推適用を主張するが、労働組合が組合員の労働条件について使用者と交渉するのは、代理人として行っているものではないし、規範的効力の根拠は法律の規定に求められ、組合員の意思に求められるものでない以上、原告らの右主張は失当というべきである。
4 労働者にとってはA型賃金が有利であり、使用者にとってはB型賃金が有利であるというのは一面的な理解に過ぎない。
確かに年功が長く、営業収入が比較的少ない労働者にとってはA型賃金が有利となるのは事実であるが、そうでない労働者にとってはB型賃金の方が有利である。
また、使用者にとってA型賃金、B型賃金のいずれが有利かという問題は、当該企業やその適用を受ける労働者の具体的事情によって異なる。企業にとっては合理的な限界を超えたベースアップはあり得ない。
近年の大阪のタクシー業界の賃金体系はA型からB型への流れを辿ってきており、A型賃金労働者の存在は例外的となっている。その背景には、大阪のタクシー業界では労働者の定着率が低く、新規採用者の年齢層が高いという事情があり、新規に乗務員としての就職を考える者にとって年功を重ねないと平均賃金に達しないA型賃金体系は魅力の低いものとなっている。その結果、労働組合としてもA型賃金に固執していたのでは新たな組合員の獲得が困難であり、使用者としてもA型賃金でしか採用できないのでは乗務員の獲得について同業他社との関係で不利な立場に立たされるという状況があるのである。
もっとも、被告においては、平成二年にB型賃金を認める新労ができていたのであるから、新人獲得の関係で、全自交高槻にB型賃金に移行して貰う必要はなかったし、原告らにB型賃金への移行を求める理由もなかった。
第四当裁判所の判断
一 新賃金条件が導入された経緯について、前記争いのない事実のほか、証拠(<証拠略>)によれば、次のとおり認めることができ、これを左右する証拠はない。
1 全自交高槻では、平成九年度の春闘について、同年六月一一日、批准集会が開催されたが、その際、執行部から組合員に対して、同年五月の被告回答とその後の交渉経過を踏まえた協定案(後日締結された協定どおりのもの)が配布された。
右批准集会においては、組合員から、減収の具体的な数字を出して欲しいとの要望が出されて、執行部が試算した数字を説明したり、また、A型賃金の基本給は時間当たりの単価の積み重ねではないとの意見が述べられたり、歩合給のスライドについて執行部から三万一〇〇〇円程度の足切になるのではないかとの予測が述べられたりするなどの質疑応答がなされた。
そして、組合員からは、歩合給の足切額について、具体的な数字も出ていないことや自交総連が未だ交渉を続けていることなどから、批准に反対意見も出されるなどしたが、執行部は、足切額については今後の交渉で努力すると回答し、採決した結果、参加組合員四八名中、三二名が賛成、一六名が反対との投票結果により批准が可決された。
2 原告らは、右批准集会での議決にもかかわらず本件協定には不服であるとして、同年六月一五日付の内容証明郵便で、被告及び全自交高槻宛てに、本件協定が原告らに効力を及ぼさない旨の通知を発したが、本件協定は同月一六日ころ調印された。
全自交高槻は、同月一八日付の書面で、原告ら各自に対し、本件協定に不服であれば、組合から離れて、被告と交渉されたい旨、書面で通告した。
3 その後、被告と全自交高槻執行部間では、A型賃金の歩合給の足切額等について団交が行われ、同年八月一八日、基本給に合計四〇〇〇円を加算し、歩合給の足切額を三万二〇〇〇円とすることで最終合意が得られ、右合意内容は、同日、確認書と題する書面の交付や団交報告と題する掲示で、原告らを含む組合員に報告され、同月二〇日被告及び全自交高槻執行部間で、右最終合意どおりの内容で確認書の調印がなされた。
二 前記争いのない事実及び右認定事実によって、本件協定及び本件確認が原告らに対して規範的効力を及ぼすか否かについて判断する。
本件協定及び本件確認が労働組合法一四条及び一六条にいう労働協約に該当することは明らかである(このことは原告らも認めるところである)。
そして、本件協定及び本件確認は、乗務員の労働時間の短縮とそれに伴う賃金の減額を内容とするものであるから、原告ら全自交高槻組合員の労働条件を不利益に変更する部分を含んでいることもまた明らかである。
ところで、労働組合は、組合員の利益を全体的かつ長期的に擁護しようとして使用者と団体交渉を行い、労働協約を締結するものであるから、締結された労働協約が、組合員の従前の労働条件を将来に向かって不利益に変更するものであったとしても、そのことから直ちに当該不利益変更部分が無効となると解するのは相当でない。むしろ、当該協約事項が、労働協約の対象となるものである以上、個々の組合員が既に取得している具体的な請求権を放棄する等の特殊な場合を除き、不利益な協約であっても、組合内での協議を経るなどして集団的な授権に基づいて締結されたものである限り、これに反対し、労働条件を不利益に変更された組合員に対しても規範的効力を及ぼすものというべきである。
これを、本件についてみると、前記認定のとおり、本件協定は、全自交高槻の全組合員に適用される労働時間短縮とそれに伴う賃金減額について、組合執行部が被告と協議して得た最終回答が組合の批准集会に諮られ、その際、A型賃金適用者に対する賃金条件の一部(歩合給の足切額)が未定であったにもかかわらず、それについては執行部の今後の交渉努力に委ねることとして、右最終回答のまま多数で可決され、これに基づいて締結されたものである。また、本件確認も、その具体的内容については組合内での決議等の手続をとることなく、最終合意が報告されたのみで確認書の調印に至ってはいるが、本件協定の内容をなす時間短縮に伴う賃金減額(歩合給の足切額確定)の問題であって、もともとは本件協定の一部をなす、これと一体のものというべきであり、批准集会では、執行部の交渉努力を予定し、未定のまま本件協定締結が議決されたのであるから、本件確認の内容確定については執行部に委任されていたものと解される。そうすると、本件協定及び本件確認はいずれも、右批准集会において形成された組合決議に基づいて締結されたものと認められる。
原告らは、これに反対意思を表明しているが、全自交高槻は、原告らに対し、不服であれば、組合を離れて交渉するよう通告したにもかかわらず、原告らは、その後も別組合を結成して独自交渉をするなどはしていないのであるから、全自交高槻執行部が交渉を継続することを黙示に承認していたものというほかない。
以上によれば、本件協定及び本件確認はいずれも、組合決議を経て、その授権に基づいて締結されたものであって、それに反対した原告らに対しても規範的効力を及ぼすものというべきである。
三 以上に対し、原告らは、一部の組合員の労働条件を不利益に変更する労働協約が、当該組合員に規範的効力を及ぼすためには、組合内部での十分な討議が尽くされ、労使間の交渉過程に当該組合員の意思が反映されることや当該組合員の労働条件を不利益に変更することが合理的とされるだけの十分な根拠を有すること(原告らが協約自治の限界、公正代表義務として主張するところも、畢竟、以上に集約される。)が必要であると主張する。
確かに、労働協約が反対の組合員に対して規範的効力を及ぼすためには、原告らが主張するような諸条件が満たされる必要がある。
しかしながら、組合内部で十分な討議がされたか否かは組合内部の問題であって、組合と対立交渉する使用者としては通常知り得ないことであるし、いかなる程度まで討議を尽くすか、労使交渉に当該組合員の意思をいかなる方法で反映させるか(組合決議を経た上で、組合を代表する執行委員が協定締結することも、反対組合員の意思反映の一方法である。)は、基本的に組合の自主的な判断に委ねられていると解すべきである。また、不利益変更に合理的な根拠が存するか否かについても、それが、労働協定(ママ)の対象となる事項であり、かつ、労働条件を不利益に変更される組合員の個別的な授権を要するような場合でない限り、右と同様に、組合の決議その他の自主的な判断に委ねられていると解すべきである。
これらについて、組合の自主的判断を度外視して労働協定(ママ)の規範的効力の有無を論じるときは、労働協約の効力を不安定なものとするし、これを避けようとすると、使用者が、組合意思の形成過程にまで容喙したり、組合とは別個に協定締結に反対する組合員との個別交渉することを許容せざるを得なくなるなどするのであって、ひいては組合の自治や統制権を制約することにもなりかねない。
原告らは本件協定や本件確認の内容は、いずれも、専ら原告らA型賃金適用者のみにかかわる賃金条件を一方的に引下げるとの不利益変更であり、狙い打ちであると主張するが、本件協定等の内容は、組合員全員に一律に適用される労働時間短縮とこれに伴う賃金減額にかかわる問題であり、A型賃金適用者の賃金条件とB型賃金適用者の賃金条件とは無関係ではなく、A型賃金適用者とB型賃金適用者とを組合員として擁する全自交高槻としては、B型賃金適用者をも含む全組合員の長期的かつ全体的な利益擁護という観点から合理的な協定締結を求められていたというべきであって、A型賃金適用者の賃金条件を組合員全員の協議、議決事項とすることを否定しなければならない理由はない。
全自交高槻執行部は、前記のとおり、組合の批准集会の議決に基づいて本件協定等を締結しているのであって、本件協定の締結等は組合の自主的な判断に基づいてなされたものというべきであるから、これに原告らが主張するような瑕疵があるとは認められない。
よって、本件協定や本件確認が原告らに規範的効力を及ぼさないという原告らの右主張は採用できない。
四 次に、原告らは、本件協定等が対象とするA型賃金の賃金条件は、その適用を受けている原告らのみに関する事項であり、集団的な共同決定により得ない事項であり、原告らの反対意思を知りながら締結された本件協定等は民法九三条但書の類推適用により無効であると主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件協定等は、原告らが主張するように、専らA型賃金適用者の賃金条件のみを一方的に切下げるというものではなく、全体的な労働時間短縮とこれに伴う賃金減額の一環として締結されたものであり、原告らA型賃金適用者の賃金条件とB型賃金適用者の賃金条件とは無関係ではないのであって、集団的な共同決定により得ない事項であるとする理由はなく、原告らが組合に留まる限り、全自交高槻としては集団的意思決定に基づいてA型賃金適用者の賃金条件を含む本件協定等の労働協約を締結できると解すべきである。
労働協約締結に当たって、労働者側に反対意思を有する組合員が存するということは何ら異常なことではなく、むしろ、通常の事態というべきであり、その際、組合代表者は、組合決議等によって表明された組合意思が存する以上、これに反して労働協約の締結を拒否したり、右決議と異なる労働協約を締結することは許されず、他方、使用者としても、組合代表者と交渉して労働協約を締結する以上、当該労働契(ママ)約に反対する組合員が存することを知っていたとしても、当該労働協約は何らの瑕疵を帯びるものではないというべきである。
原告らは、新賃金条件が原告らA型賃金適用を受けている組合員に対して、B型賃金の適用を受けている他の組合員との対比でみても過度の不利益をもたらすものであると主張するのであるが、仮にそうだとしても、全自交高槻執行部としては、組合決議に諮った上でその決議に基づいて本件協定締結等をしているのであるから、被告が、原告らの通知によって原告らの反対意思を知っていたとしても、本件協定等に民法九三条但書を類推適用する余地はない。
よって、本件協定等が無効であるという原告らの右主張も採用できない。
五 さらに、原告らは、本件協約及び本件確認は、原告らの賃金を大幅に減少させるという結果の重大性並びに被告及び全自交高槻執行部(羽室委員長)が原告らに対する嫌がらせのために行ったという目的の不当性からして、公序良俗に反し無効であると主張する。
しかしながら、第一に、賃金減額ということ自体からして公序良俗に反するということはできないし、原告らの主張では、減額は約一三パーセントというのであり、原告らが新賃金条件の下で現に支給を受けている賃金額(別紙新旧賃金計算表)からしても、およそ、提供する労務との均衡を欠いた不当なものとまでいうことはできないのであって、結果の重大性から公序良俗に反しているということはできない。
第二に、確かに、弁論の全趣旨からして、被告が、全乗務員についてB型賃金への移行を志向していることは、これを認めることができるし、また、全自交高槻内部では、A型賃金の適用を受けているのは原告らだけであり、かつ、少数派組合員であるというのであるから、賃金条件等についてA型賃金適用者とB型賃金適用者との間に利害対立関係が生じる場合には、A型賃金適用者に不利益な組合決議等がなされ、これに基づいてA型賃金適用者に不利益な労働協約が締結される蓋然性は高いというべきである。
本件協定締結等も、右のような背景から、時間短縮に伴う賃金減額が避けられないとする中で、A型賃金適用者を排除したいとする被告の意図と、他の従業員(B型賃金適用者である。)並みの賃金は確保したいとする全自交高槻内の原告ら以外の多数派組合員との利害が一致した結果であるとみることは十分可能なところである。
しかしながら、かかる事態が生じることは、原告らが少数組合員として全自交高槻に留まる限り必然の結果であって避けられないところであり、他方、本件協定等が、右の限度を超え、被告及び全自交高槻の執行部において、原告らを排除するため、ことさらに不必要な賃金減額を企図して締結したとまで認めるに足る証拠はない。
そうである以上、動機の不法の故に本件協定等を公序良俗に反するということもできない。
したがって、本件協定等が公序良俗に反して無効であるという原告らの主張もまた採用できない。
六 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 森鍵一)
<別紙> 請求額目録
<省略>